コーチング心理学とは、コーチングを心理学の観点から研究した学問です。コーチングそのものを研究して、学術的に体系化したものだと考えるとわかりやすいですね。基本は心理学です。私の専門は、コーチング心理学であり、かつてはコーチング心理学の理論に基づきコーチングをしていました。

この章では、コーチング心理学の理解を深めてもらうために、いわゆる「コーチング」と比較をしながら、コーチング心理学について解説をしていきます。

なお、どちらがいいとか悪いとではありません。

コーチング心理学が生まれた経緯

従来のコーチングのモデルは、個人の行動を観察したことから生まれました。

たまたま人の才能や能力を発掘して、育てるのが上手な人がいました。その人たちをネイティブコーチと呼んでいます。その人の行動や態度を観察して、それらを体系化させたのがコーチングだったのです。

経緯1.主観的行動から客観性研究へ

しかし、そこには論理の飛躍があった

従来のコーチングは、個人の成功体験を一般化した結果であり、その客観性が担保できず説得力が弱くなりました。

例えば、私たちは、いつもイチローやスティーブジョブズの生き方は考え方には感化されています。私もそのひとりです。しかし、彼らの行動や態度をマネできるでしょうか?そして、同じ結果を出すことができるでしょうか?そこは疑問です。

コーチングが研究されるようになった

そんな「従来のコーチング」について、アメリカ・オーストラリアの研究機関が、コーチングそのものを学術的に研究されるようになり、体系的な学問になったのがコーチング心理学でした。従来の心理学や教育学のモデルを、コーチングに援用して、コーチングの効果や結果について研究するようになりました。

経緯2.多少なコーチングの定義を明確化

良くも悪くもコーチングの定義は多様化しています。コーチング団体の数だけ「コーチ/コーチング」の定義があるとされています。現在でも、多くのコーチング団体が、自分たちのコーチングを自分たちの言葉で定義をしているかと思います。その辺はコーチングの良いところでもあり、悪いところかもしれませんね。対して、コーチング心理学の定義は明確です。

心理学の学術的裏付けがある

その為、コーチングの定義においても、コーチング会社・団体が独自で設定するのではなく、権威ある学会や研究機関が定めたものになります。

Grant&Palmerが2002年に発表した定義

「コーチング心理学は既存の成人学習と子供の学習理論、および心理的研究法に基づくコーチングモデルを援用し、個人生活や職場での幸福(well-being)とパフォーマンスを高めるものである」(Grant&Palmer, 2002の発表)

コーチング心理学概論

オーストラリア心理学会の定義

コーチング心理学は、ポジティブ心理学の応用分野であり、確立された心理学研究法に基づき、それを発展させたものである。コーチング心理学は、行動科学を体系に応用することで、臨床的に重大な心理的健康の問題を持たず、特別な苦悩の水準にない個人の生活支援、集団、組織のパフォーマンスを高め、よい状態を保つことに資する」(オーストラリア心理学会コーチング心理学部門)

コーチング心理学概論

2つの定義からもわかるように、コーチング心理学は、心理学の理論や研究法に基づいて作られていること。心理学を基礎に置き、コーチングのモデルに応用したものだといえます。よって、コーチング心理学とは、心理学なのです。

経緯3.コーチからサイコロジストへ

コーチングであれば、どこかの協会で認定資格を受けた人が自分のことを「コーチ」と名乗り、クライアントにコーチングを施します。対して、コーチング心理学では、心理学の理論に基づいた実践と実証研究を行った「サイコロジスト」がコーチングを行います。サイコロジストとは、言い換えるなら経営管理修士保持者(MBAホルダー)に近い位置にあります。

専門分野 支援活動
サイコロジスト 心理学 コーチング
MBAホルダー 経営学 コンサルティング

なお、サイコロジストは、MBAホルダー同様、必ずしも現場でコーチングをする者ではなく、本来の役割はコーチング心理学について研究をする研究者です。例えば、冒頭で紹介をしたパルマ―やグラントもコーチではなくサイコロジストだといえるでしょう。なお、サイコロジストとしての資格を持ちながらコーチとして活動をすることもできます。

コーチング心理学の貢献

コーチング心理学のいちばんの貢献は、心理学のアプローチからコーチングの「領域」や「理論」を明確にしたことでしょう。コーチング心理学の誕生により、それまでは混在していたコーチングのジャンルの住み分けが実現しました。

一言で「コーチング」と言っても、アプローチや領域がこれまで多岐にわたること。各ジャンルの定義や意味については割愛させて頂きますが、これだけコーチングが多様化して、さらに体系化していることもご理解いただければ幸いです。